アドバンス・ケア・プランニングと経済活動

アドバンス・ケア・プランニング(ACP: Advance Care Planning)とは、

・年齢と病期にかかわらず、成人患者と、価値、人生の目標、将来の医療に関する望みを理解し共有し合うプロセスのこと。

・ACPの目標は、重篤な疾患ならびに慢性疾患において、患者の価値や目標、選好を実際に受ける医療に反映させること。

・多くの患者にとって、このプロセスには自分が意思決定できなくなったときに備えて、信用できる人もしくは人々を選定しておくことを含む。

・ACPは患者、信頼できる人々、医療従事者とともに行われることが望ましい。

・話し合いは、患者が自分の病状や予後、これからの治療についてどれくらい知っておきたいか、のレディネスに応じて行われる。

・ACPは健康状態や患者の生活状況が変わるごとに繰り返し行われるべきである。

・ACPは患者が最も大切にしていることに基づいて意思決定ができるように、医学的ケアの全体としての目標が何か、に焦点を当てる必要がある。

・患者が自ら意思決定ができなくなったときに備えて、患者に成り代わって意思決定を行う信用できる人(人々)を選定することにも焦点が当てられる。

・患者の健康状態が変化するに従って、ACPは特定の治療やケアについてどうしていくかに焦点が移っていく。

・治療の決定は医療従事者とともに、法令に従い、患者の変化していく健康状態や予後について共通理解を得ながら行われるべきである。

・話し合いの内容は、信用できる人(人々)ならびに医療従事者とともに話し合った後で記録に残し共有されるべきである。

・記録された内容は、必要となった時にすぐに参照できるように保存され、必要に応じて更新されるべきである。

Sudore RL, et al. Defining Advance Care Planning for Adults: A Consensus Definition From a Multidisciplinary Delphi Panel. J Pain Symptom Manage. 2017 May;53(5):821-832.e1. より

とされており、とても簡単に言うと、主に終末期(死を間際にしたとき)に医学的な対応を優先するのではなく、患者の意思を尊重することからはじめようという考え方ですが、医療福祉の現場ではさらに考え方が拡大して、どのような病気・病期においても患者の意思決定を尊重した支援をしようという考え方が主流となっています。

映画の「死ぬまでにしたい10のこと」ではないが、わたしも自分のしたいことを誰かに決められたくはないので医療従事者が患者意志決定を支援することはとても大切なことだと思う。

しかし、多くの患者はある日急に病気になり、しばらくして病気を知る。そこではじめてアタフタするもの。ACPが大切だとわかっていても現実に直視しない限り実行に移さないのが人間であり、宿題を後回しにする息子も同じである。

実はこのような現実は医療従事者も同じで、ACPが大事だとわかっていてもそのような機会に偶発的に出会い、必要に迫られて初めて、考えて、勉強するものなのです。

にわか仕込みの意志決定支援は、どうしてよいのかわからない患者に対して「自分の意思で決めて下さい。」と無慈悲な言葉を届けます。そりゃ、患者は病気になれば「元に戻りたい」と言うだろうし、よくよく思いを聞いてみるとこの「元に」という言葉には、病気になる前どころか、青春時代を謳歌していたときに戻りたいとなるのだから、患者の考えは混乱極まっている。

現在の意志決定支援は、本人の意思や人生観などを通じて、最善と思われる医療とケアをしようというのがプロセスですが、よく考えると、色々と患者を尊重しようと唱えながら、最終的には医療従事者がどう提供するかという、主語が置き換わる概念図になっているのが問題点です。

この問題に対しておもしろい解釈があります。経済学分野は、ここに矛盾点を感じて、あらたに提案したのが、「パッケージ」提案です。医療もケアも提供する商品であれば、あらかじめパッケージ化されたものを並べておいて、患者本人が選択するのが経済活動として適切という考え方です。顧客である患者は、自分の意思によって、買いたい商品を購入するというごく当たり前の発想です。商品は、単品で価値あるものであったり、お得なセット販売で価値があるものにもなります。

個人的には視点が変わるだけで意思決定と経済活動がリンクするというのは非常に興味深いものです。

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